『伝える・伝わる』ことの大切さ

作業療法士の資格を持っている人で、この仕事をはじめたばかりの人は、目の前の仕事に頑張って取り組んでいるので、職場の中で何か新しい事業をはじめたりすることに関わることはあまりないかもしれません。

作業療法士の仕事を始めて10年以上の人や、20年以上のベテランの人になると、職場の中での新しい事業をはじめたりすることに関わったり、友人と一緒に新しい会社を作ってみたりする経験があると思います。

作業療法士の仕事に限らず、例えば、小学校・中学校・高校などに通っている人も、学年が上がれば、だんだん学校のイベント(運動会の司会とか学芸会のまとめ役とか)を先生から任されたり、下の学年の子たちのお世話を任されたり、何か新しいことをはじめて下の学年の子たちを引っ張っていく立場になったりすると思います。

そんな時に、一番大切になってくるのは、みんなをうまくまとめていくために、

 

きちんと自分の言葉や行動を相手に『伝えている』かどうか

 

また、それと同じくらいに大切なのが、

 

相手の人が自分が伝えたことをきちんと理解してくれているか、つまり『伝わっている』かどうか

 

今日は、私が18年前に、介護老人保健施設という新しい施設をみんなで作っていく中で、『伝える・伝わる』ことの大切さを学んだ経験から、それが今の私の仕事やプライベートにとても大きく役立っていることをお伝えしたいと思います。

 

私が最初に働きはじめた場所


 

短大の卒業を目前に控えた2000年の2月、働き先を探していた私に、知り合いの先生から「作業療法士を募集している病院があるけど、行ってみないか?」と言われ、実際に見学に行って、「ここなら働けそう」と思い、その病院で働き始めることになりました。

 病院のあるその地域は、昔は海水から『塩』を作ってそれを全国に売っていたことでとても賑やかな町だったことから、古い街並みを残しつつ、今では道路・空港・船での移動など交通の中継場所としての役割を果たしていました。

それでも、住んでいる人が少しずつ減ってきて、私が働きはじめた頃からも、子供の数がだんだん少なくなっていく『少子化(しょうしか)』やお年寄りの数がどんどん増えていく『高齢化(こうれいか)』の波が押し寄せていた地域でもありました。

 病院はそんな地域の中心的な病院として、その役割を果たしていました。

 そんな病院でのスタートは、作業療法室を新しくオープンさせることであり、理学療法士6人に対して作業療法士は私だけという中で作業療法を広めていくことを任されていました。

やる気だけは人一倍あったので、新しいことを0から始めるくらいの気持ちで自分なりに

 

「作業療法ってこんなに役立ちます!」

 

「作業療法はこんなに楽しいんです!」

 

なんてことをみんなに伝えながら、どんな小さなことでもどんな大きなことでもなんでもしていました。

「そもそも作業療法って何をするの?」くらいしか知られていなかった病院内で、私は作業療法の処方を出してもらうために病院内を走り回って

 

「○○さんは作業療法を必要とされているので、処方を出してください」

 

と言って回ったり、自分の休みの日や仕事終わりの時間を使って患者さん宅に訪問したり、研修会などで得たものをすぐに実践してみたり、さまざまな施設の見学に行ったり、とにかく自分から動き回っていました。

3ヶ月くらい経つと、少しずつ作業療法の処方が出るようになって、作業療法を受ける人が増えてきて、患者さんが私のところに来られることも増えてきました。

仕事もだんだん忙しくなって、ありがたいことに患者さんの方から

 

「作業療法をしてみたい!」

 

「作業療法って面白い!」

 

と言ってくださるようになってきました。

でも、それなりに自分の中では結果が出つつあると思いながらも、どこか心の中では何かが引っかかっていました。

 

「本当にこのままでいいんだろうか?」


介護老人保健施設の開設


 

そんな日々を過ごしながら働きはじめて1年半が過ぎようとしていたある日、病院の敷地の中に新しく介護老人保健施設という新しい施設を作ることが決まり、その施設を1からつくるための準備委員会ができて、病院からリハビリテーション科にいる理学療法士や作業療法士も、この新しい施設をつくることに関わってほしいという話がきました。

話を受けた時に、私の上司からは「病院での仕事が優先だから、関わるとしても新しい施設に理学療法士や作業療法士を行かせることは難しいかな」と言われていましたが、短大時代の恩師の先生からはこう言われました。

 

「川本くん、君にぴったりじゃないの?関わるなら、1からつくる今の段階からどっぷりと関わってみた方が今の君にとってはいいと思うし、これからの作業療法のためにもなると思うよ」

 

そこで、上司をなんとか説得して思い切って病院を離れて新しくつくる介護老人保健施設の職員として新しい施設を1からつくるための準備委員会に関わるようになりました。

でも、準備委員会の全員が介護老人保健施設を1からつくることなどは初めての経験だったので、

 

「そもそも介護老人保健施設ってどんなところ?」

 

「何が必要で何が必要でないの?」

 

「職員は何人必要なの?施設に入る利用者さんの数はどのくらいが目安なの?」

 

「役所にどんな書類を出せばいいの?」

 

など、手探りの状態からのスタートでした。

なので、準備委員会のみんなで他の施設の見学に行ったり、みんなの間でのお互いの専門性を理解し合うための勉強会を何度も開いたり、施設オリジナルの考え方(理念)を決めたり、私を含めたいろんな職業の人(医者、看護師、介護の職員、事務の職員など)がお互いに協力する方法などを話し合ったり、手すりの取り付け場所やトイレの位置や部屋のレイアウトの整備といったことを一つずつ整えていきました。

作業は寝ることも食べることも忘れるくらいにみんなで一緒に悩み、考え、つくりながら準備を進めて行きました。

準備段階から無事に施設のオープンを迎えてからも、みんなとは時に激しい言葉のやり取りをしたり、時に励ましあったり、時に笑いあったり、時に涙しあったりしながらも、いろいろな難しい問題に直面するたびに、お互いに助け合いながらなんとか解決していきました。


『伝える』・『伝わる』ことの大切さ


一緒に悩み、一緒に課題を解決していく過程で、

準備委員会から関わっているみんなから

 

「川本さん、イメージが変わったね」

 

と言われました。

私はなんのことかさっぱりわからなかったのですが、

 

「病院勤めをしていた時の川本さんって、『作業療法士とは!』みたいな、作業療法士以外の私たちからしたら、何を言っているのかさっぱりわからないことを話す人だなっていう感じだったけど、一緒に働くようになってから、私たちと同じ目線で話してくれるようになったよね」

 

と言われ、私は改めて病院にいた頃には

 

きちんと『伝えている』と思っていたことが

 

実は『伝わっていない』

 

ということを実感しました。

私が病院にいた頃に心の中で何かが引っかかっていたのは、このことだったのです。

 

病院にいた頃は確かに自分なりに頑張っていたのかもしれないけれど、どこか一方通行で実際は単なる『自己満足に過ぎない』ことが多かったのではないかと思いました。

新しい施設をつくるという流れの中で、いろんな人とじっくり話し合って、一緒に考えて何かをつくっていくことを通して、

 

しっかりと相手に向き合っていきながらきちんと自分の言葉や行動を相手に『伝えて』

 

それを相手の人がきちんと理解してくれて『伝わる』ことになった

 

からこそ、「同じ目線で話してくれるようになった」と言ってもらえたように思いました。

 

皆さんも他の人と一緒に何かを行っていく場面は多いと思います。

人は一人ではできないことが多けれど、誰かと一緒だとできることも多くなります。

また、自分一人で抱え込まなくても、周りの人の協力が得られれば、少ない力で大きな結果を出せることもたくさんあります。

 

私は老人保健施設を1からつくるという中で、自分とは違う職業の人たちと一緒に考えていくことで、

 

『自分の言葉はちゃんと伝わっているか』

 

『相手の立場だったらどう受け止められているか』

 

を意識して考えることができるようになってきた ように思います。

 

もちろん、今でもまだまだうまくできていないことだらけですし、失敗もたくさんします。

でも、常に『伝える・伝わる』ことを意識しながら、仕事やプライベートを過ごしています。

 

もし、皆さんの中で、仕事の中や友達関係や他の人との間で、なんとなくうまくいかないようであれば、きちんと自分の言葉や行動を相手に『伝えている』かどうか、また、相手の人が自分が伝えたことをきちんと理解してくれているか、つまり『伝わっている』かどうかをもう一度考えてみてはどうでしょうか。

 

最後までブログを読んでくださり、ありがとうございます!

 

 

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2 件のコメント “『伝える・伝わる』ことの大切さ

  1. ご無沙汰しています。aixの勉強会で、小原さんが元いた会社の社員、飯田です。ハンダと読みます。川本さんのブログは、私が受けた印象と違わず、地に足のついたよく考えられた内容だと思いました。特に伝える伝わるは、私の父が私に大学に入るにあたってと話してくれたことであり、いまだに不十分です。相手の反応をよく見ながら、話す気持ちの余裕があるといいと思います。まだまだ、研鑽がたりません。これからも、意識しながら磨いてまいります。たくさんの気づきを与えて下さり、ありがとうございます。

    1. 飯田さん
      先日の勉強会ではご一緒でき、ありがとうございました。また、ブログを見ていだだき、コメントもいただけたこと、本当にありがとうございます。
      私も仕事をしていく中で、きちんと『伝えている』と思っていたことが、実際には『伝わっていない』という失敗を何度も経験して来ました。でもその失敗があったからこそ、しっかりと相手に向き合っていきながらきちんと自分の言葉や行動を相手に『伝えて』、それを相手の人がきちんと理解してくれて『伝わる』ことになるということが分かって来たように思います。私もまだまだ学ぶことも多く、日々多くの気づきやご指摘を受けながら、一所懸命いろいろなことに取り組ませてもらっています。このブログに関しても、こうしてコメントをいただけることでの気づきがとても多いので、本当にありがたいですし、コメントをいただけることでブログを書く意欲もさらに向上いたします。引き続きブログを見ていただき、またコメントもいただけるとありがたいです♪

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