【一期一会】妖精と暮らす

こんにちは。広島の作業療法士の川本健太郎です。

この記事は私の好きな言葉でもある【一期一会】をもとに、作業療法士としての日々の出会いや色々な思いを綴ったショートストーリーです。

思わずクスッと笑える話から、ちょっと心のどこかに届くような話しなど、サクッと読めるように心がけていますので、お気軽に読んでみてください。

(*´▽`)ノノ

 

妖精と暮らす


ここにはね、小人(こびと)の妖精が住んでいるのよ。

 

チハヤさんは80歳代の女性の方で、パーキンソン病という病気を長年患っておられます。

病気の影響で立ったり歩いたりといった動作が難しくなるだけではなく、筋肉がこわばったり、何もしていないのに手足が震えたり、バランスが崩れやすくなって転びやすくなったりしています。

お薬である程度症状のコントロールはできるのですが、お薬の影響で

 

幻視(げんし)

 

という症状が出現することがあります。

幻視は、あたかもそこに誰かがいるようにはっきりと見えたり、壁や床の模様がうごめいていたり、床に虫がいたりなど、おおよそ私たちには全く見えないものが見えたりすることがあります。

チハヤさんの場合は、小人の妖精(以下、妖精さん)が見えるようで

妖精さんね、今は指の上を一所懸命歩いているわ。

と平然とした顔で言われます。

幻視は見えていたとしても、生活に影響のないものや、慣れてしまっているものに関しては、あえて薬の調整などは行わず、経過を見守ることが多く、チハヤさんの場合も本人が特に生活上の問題を訴えていなかったので、そのまま見守ることにしていました。

 

しかしある日、チハヤさんは家のトイレで転倒してしまいました。

転倒してから発見されるまで、右腕を体に巻き込んだ状態で30分以上そのままの姿勢だったため、助け出されてから病院に運ばれても右腕はほとんど動かない状態でした。

病院での検査の結果、右腕の神経損傷と診断され、担当医からは

 

「以前ほどの機能が回復するかどうかは分からないし、仮に回復しても実用的になるか難しいところですね」

 

と言われていました。

チハヤさんは訪問看護・リハビリ、デイサービスを利用されていましたが、三角巾で右腕を吊った状態を人に見られることを嫌がられ

デイサービスには行きたくない・・・人に会うのが怖い・・・。

と言われ、デイサービスには行かなくなりました。

そして、あれだけ仲良しだった妖精さんに対しては

あれは妖精じゃない!もっと大きな子供よ!しかも私の右手にイタズラをして動かないようにしている!

と完全に拒絶するようになってきました。

そこで、主治医と相談しながらお薬の量を調整するとともに、積極的に手のリハビリを行うようにしました。

また、妖精さんが見えている時には、できるだけ妖精さんが治療に協力してくれているような声かけをするようにしました。

たとえば

ほらほら、妖精が右手を登ったり降りたりしているわ!

とチハヤさんが少し混乱している時には

 

「あー、妖精さんね、早く腕が動くようにって、妖精の粉で腕の神経を刺激してくれてるんだよ」

(*´˘`*)♡ダヨ

 

とお伝えするなど

 

妖精さんもチハヤさんの回復に協力している

 

というようにチハヤさんが思えるような声かけを心がけました。

最初は訝しげに見ていたチハヤさんですが、薬の調整が少しずつうまく行き始め、手の機能回復がみるみる進んで行くにつれて

今日、妖精さんがね、私の(右)指の先でちょこんと座って、こっちを向いて「おはよう」って言ってくれたのよ。

なかなか寝れない日にね、妖精さんが耳元で子守唄を歌ってくれたんで、ぐっすり寝れたんですよ。

といったことを話されるようになり、妖精さんを受け入れるようになってきました。

今でも時々部屋の暗がりで妖精さんとは違ったものが見える時もあるようですが

 妖精さんがうまく対応してくれている。

とチハヤさんは満足そうに話をされ、嫌がっていたデイサービスにも行かれるようになりました。

 

幻視についての話をすると

 

「病気による幻視なんだから、そもそもそれが見えなくなる方が良いのでは?」

(o・ω・o)ツラクネ?

 

と言われる方もおられます。

しかし、パーキンソン病をはじめ、病気によってはその影響や薬の作用などで幻視がずっと出続けることは珍しくありません。

大切なのは

 

幻視が生活にどのような影響を与えているかをきちんと把握しておく

 

というところであり、幻視そのものが悪いという訳ではありません。

チハヤさんの場合は、体の状態の悪化が心にも作用し、その結果、妖精さんとの関係が一時的には崩れましたが、回復とともに妖精さんとの共生を楽しまれるようになったという経過をたどりました。

そしてこうも言われます

おかしな話だけどね、妖精さんと一緒に住むのも、悪くないわよ。

 

なんとも不思議な感覚ですが、チハヤさんにとって妖精さんとの暮らしはまんざらではないようです。

 

 

皆さんの貴重なご意見・ご感想、大変参考になりますので、お気軽にコメントなどいただけると嬉しいです。

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