相手のやる気を引き出す4つのコツ  その4:根気強く待つ

作業療法士の仕事は、どれだけ相手が作業療法に対して『やる気』になってくれるかにかかっています。

どれだけ正しいことを相手に言っても、『やる気』に繋がらなければ、誰も作業療法を受けたいとは思いません。

『相手のやる気を引き出す4つのコツ』では

第一回目『相手のことをよく観察する』

第二回目『相手に合わせていろいろと工夫する』

第三回目『しっかりと具体的に褒める』

についてお伝えしました。

第四回目は『根気強く待つ』をお伝えします。

第三回目までを読んでいただいている方は、この第四回目の話とのつながりがすぐにお分かりになると思います。

まだ第三回目まで読んでいない方でも、この第四回目を読んでいただければ今までの要点をつかめるように書いていますが、できれば第三回目まで目を通していただけると、今回の『根気強く待つ』がより分かりやすいと思います。

 

『根気強く待つ』ことの大切さ


 

ことわざには

 

『人事を尽くして天命を待つ(じんじをつくしててんめいをまつ)』

→できる限りのことをして、あとは天(てん)の意思に任せよう

 

『待てば海路の日和あり(まてばかいろのひよりあり)』

→今はうまくいかない物事も、焦らず待っていれば幸運な機会がきっとめぐってくる

 

『果報は寝て待て(かほうはねてまて)』

→幸運は自然にやってくるものだから、焦らず気長に待つ方が良い

 

『運を待つは死を待つに等し(うんをまつはしをまつにひとし)』

→努力せずに、ただ幸運を待っているのは、自分の死を待つように愚かなことである

 

『待つ身より待たるる身(まつよりもまたるるみ)』

→人を待ってる方も辛いけど、待たせている相手も相手のことが気になって辛いものだ

 

など、ここに挙げたことわざ以外にも、『待つ』という言葉に関係することわざは実に多く存在します。

そのくらい、昔から『待つ』ということはとても大切なこととして私たちの身近な生活と繋がっています。

 

また、日本の歴史に興味のある人であれば、『根気強く待つ』ということは、歴史の上でもとても重要な決断に繋がったことを知っているかもしれないですね。

例えば、今から100年以上前の明治時代に、日本とロシアが戦争をした『日露戦争(にちろせんそう)』における、『日本海海戦(にほんかいかいせん)』では、当時の世界最強と言われたロシアの『バルチック艦隊』が『対馬海峡(つしまかいきょう:韓国と北九州の間の海)』もしくは『津軽海峡(つがるかいきょう:北海道と青森の間の海)』のどちらを通って日本海に来て、どこで『バルチック艦隊』を迎え撃つか、その選択に日本の命運がかかっていました。

日本の艦隊の司令官である『東郷平八郎(とうごうへいはちろう)』は、いろいろな情報が飛び交う中、ギリギリまで待った上で『対馬海峡』で迎え撃つことを選びました。

その結果、万全の備えで『バルチック艦隊』と戦うことができ、日本の勝利に繋がったという話を知っている人も多いのではないでしょうか。

 

歴史の流れに大きく関わるくらい

 

『根気強く待つ』

 

ことが大切なことだということがお分かりいただけると思います。

 

『根気強く待つ』ことは意外と難しい


 

では、私たちの身近なところではどうでしょうか。

私たちは何か問題があったり、会話に行き詰まったり、相手が商品(技術)を買うか買わないか悩んでいたり、会社で部下がなかなか成果を出せなかったりすると、どうしてもすぐに行動をしたがります。

 

「これは早くなんとかしなきゃ」

 

「会話が続かないからとにかく話しかけよう」

 

「相手が商品(技術)を買うか買わないか悩んでいるようだから、商品(技術)の良さを説明して買ってもらうように話そう」

 

「部下にしっかり言い聞かせよう」

 

など、積極的にこちらから相手に何かをしようとしてしまいがちですよね。

でもその結果、逆に問題がこじれてしまったり、ますます会話が続かなかったり、相手が気分を悪くして商品(技術)を買わずに帰ってしまったり、部下の『やる気』がますます下がってしまったりすることになり、せっかくの努力が水の泡になってしまうことが多いのではないでしょうか。

 

問題があったり、会話に行き詰まったりしているからこそ、

 

『根気強く待つ』

 

という姿勢が大切になります。

その時に思い出して欲しいのが、『相手のやる気を引き出す4つのコツ』の第一回目から第三回目までにお伝えした内容です。

例えば、何か問題があった時には

 

「もしかしたら自分の気付いていないところがあるのでは?」

 

といった、第一回目でお伝えした

 

『相手のことをよく観察する』

 

という内容の中で、

『見えるところをよく観察する』だけではなく『自分では見てない(見えていない)ところも観察する』ことができているか

いったん立ち止まって考えてから、必要な情報を集め直して整理してから問題解決に向けて取り組めば、案外すんなりと問題解決に繋がることもあります。

 

会話に行き詰まった時には

 

「もしかしたら、今、相手も何か考えているかもしれない。こちらから無理に話しかけるのではなく相手の出方を待とう」

 

と考えれば、相手から話が出ることを待つことが結果的に良い方向に向かうことにもなります。

 

相手が商品(技術)を買うか買わないか悩んでいる時には

 

「今、ここで無理に私が良かれと思っているこの商品(技術)を勧めるよりも、違った商品(技術)の紹介をしてみて比べてもらうことで相手の価値観がわかって、案外、良い方向に進むかもしれない」

 

といった、第二回目でお伝えした

 

『相手に合わせていろいろと工夫する』

 

という内容の中で、

『自分の価値観』ではなく、『相手の価値観』を大切にすることができているか

いったん立ち止まって考えてから行動に移してみるのも良いと思います。

 

会社で自分の部下がなかなか成果を出せない時には

 

「もしかしたら部下の『やる気』を出させるような褒め方をしていないのかもしれない。

ただ単に『頑張り』だけを褒めているのかもしれないので、具体的に何について褒めているのかを整理して伝えよう」

 

といった、第三回目でお伝えした

 

『しっかりと具体的に褒める』

 

という内容の中の、

『頑張り』『努力』といったものだけではなく、『どんなプロセス(経過)をたどっているか』と『どんな成果(目標)に繋がっているか』

いったん立ち止まって考えてから行動に移してみるのも良いと思います。

 

大切なことは、『自分』を中心とした捉え方ではなく、『相手』がどう捉えているのかについて、

 

『相手のことをよく観察する』

 

『相手に合わせていろいろと工夫をする』

 

『しっかりと具体的に褒める』

 

といった内容と

 

『根気強く待つ』

 

ことを、相手に合わせて組み合わせ、自分の行動とすることを日頃から心がけることなのです。

 

事例の中から『根気強く待つ』ことを考える


 

第二回目はトクさん、第三回目はケンくんについて紹介しました。

その中から、『根気強く待つ』ことに触れたいと思います。

 

『根気強く待つ』〜トクさんの場合〜


 

第二回目で紹介した「トクさん」では、トクさんの話をしっかりと聞くための『場』を設定して、トクさんが私と作業療法士のAさんのいるところで、トクさんの思いをしっかり話してもらえる時間と場所を作るとともに、トクさんに遠慮なく話してもらえる『雰囲気』を作ることを心がけました。

トクさんの思いに対して

 

「あなたの価値観を押し付けるのはおかしい」

 

「部下のしていることは間違っていないから取り合わない」

 

ということを、こちらから頭ごなしに言うことは絶対にしないように、まずは

トクさんの思いに合った接し方=『相手(トクさん)の価値観』に合わせた接し方をするために、こちら側が積極的にトクさんの話を聞こうとする姿勢を持つように心がけました。

 

『どんな人生を歩んできたのか』

 

『自分や周りの人にどんなことを知って欲しいのか』

 

『病気になってどんな思いがあるのか』

 

『どんな気持ちでリハビリテーションをしているのか』

 

『これからの生活をどのように過ごしたいのか』

 

などを聞くために

 

うなずきや相槌(あいずち)や目線を合わせるなど言葉を使わない(非言語)けれども相手の話をきちんと聞いていることが分かるような返答を使う

「それから・・・」「なるほど・・・」といった言葉を使って相手の話を中断させることなく『きちんと聞いています』を分かりやすく伝える

③「戦時中は少佐だったんですね」「1000人の部下を一人も見捨てないで、終戦の混乱の時期に全員無事に日本に連れて帰ってこられたんですね」「私(川本)が最初の挨拶だけだったことがご不満だったんですね」といったトクさんの言った言葉そのものを繰り返すように言葉に出すことで『あなたの話に共感しています=あなたの考え方を支持します』と分かりやすく伝える

④「つまり、トクさんはAさんとの作業療法には不満はないということですよね」「定期的に私がAさんのフォローアップをする形で関わらせていただいてよろしいということですよね」「退院前にご自宅に伺ってもよろしいということですね」といった『確認』と『まとめ』の言葉を使うことで、相手の話を聞いた上での具体的な行動につなげることを分かりやすく伝える

といったように、『相手の話をじっくり聞くことをする』すなわち

 

『根気強く待つ』

 

ことを心がけました。

 

また、トクさんへの関わりの中で自信を無くしかけていた作業療法士のAさんに関しては、トクさんの担当をすぐに変えるようなことをするのではなく、Aさんの取り組みをきちんと評価した上で、

 

「間違ったことをしていないので、自信を持ってトクさんに関わって欲しい」

 

ということをきちんと伝えて、Aさん自身が自信を取り戻すことや、Aさん自身の成長を信じて

 

『根気強く待つ』

 

ことを心がけました。

その結果、自信を無くしかけていたAさんが自分の役割にしっかりと向き合うことができるようになり、トクさんが自宅に退院してからも引き続きAさんが担当できるようになったと思います。

 

『根気強く待つ』〜ケンくんの場合〜


 

第三回目で紹介した「ケンくん」では、無理やりケンくんを引っ張り出すのではなく、

ケンくん自身が私の言葉に耳を傾けるようになるまで

 

『根気強く待つ』

 

ことを心がけました。

そしてケンくんが『将棋』というきっかけから自分から積極的に行動するようになってからは、単にケンくんの頑張りを褒めるだけではなく、『おじいちゃんに将棋で勝つ』という目標がブレないような言葉がけをするようにしました。

褒め方に関しては

 

「この駒の指し方はよかったね。でも、この別の駒を使ったらどうだったと思う?」

 

という『YES・BUT』の伝え方ではなく、

 

「この駒の指し方はよかったね。じゃあ、この別の駒を使ったらどうだったと思う?」

 

という『YES・AND(SO)』の伝え方をして、褒めた言葉(YES)の後に否定(BUT)する言葉を繋げないように工夫をしたり、

 

「ケンくん、将棋が上手くなったねー!(←感情への働きかけ)

 

1ヶ月前と比べても、はるかに駒の動かし方が良くなって、2手先や3手先まで相手の動きを読めるようになっているね。(←プロセスの評価)

 

これならおじいちゃんと将棋をしても、勝てるのもそんなに遠くの話じゃないよ!(←目標の評価)」

 

といった、『しっかりと具体的に褒める』ことを続けました。

こうした取り組みの根っこの部分は

ケンくん自らが言葉や行動に移すまでケンくんを信じて

 

『根気強く待つ』

 

ことが大前提だったのです。

 

まとめ


 

今回は、『やる気を引き出す4つのコツ』のその4である

『根気強く待つ』についてお話をしました。

『根気強く待つ』ことは、今までのブログでお伝えした

『見えるところをよく観察する』だけではなく『自分では見てない(見えていない)ところも観察する』すなわち

 

『相手のことをよく観察する』

 

ことや、

『自分の価値観』ではなく、『相手の価値観』を大切にする、すなわち

 

『相手に合わせて工夫をする』

 

ことや、

『YES・BUT』ではなく『YES・AND(SO)』の伝え方をすることや、目標に向けて何ができているかを具体的に伝える、すなわち

 

『しっかりと具体的に褒める』

 

こととも関係しあっています。

第一回目から第四回目までの記事は『やる気』を引き出すコツとしてとても密接に繋がっていますので、もし、機会があれば読み返していただけたらと思いますし、全四回の記事が少しでも皆さんのお役に立つことができればと思います。

 

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