義足と車いすと松葉杖を使い分ける

こんにちは。作業療法士の川本健太郎です。

私は16歳の時に、右足に骨肉腫というがんを患い、抗がん剤の治療を中心に、1年近く病院に入院しての闘病生活を送りました。

抗がん剤の治療を半年ほど行って、がん細胞が少し小さくなってきたところで、右の太ももを1/2以上で切断しました。

足を切断してから半年間、さらに抗がん剤の治療を行い、退院から現在に至るまで、義足と車いすと松葉杖での生活を併用しています。

今回は、私がどのような場面で義足と車いすと松葉杖を使っているのかをお伝えをして、なぜこれら3つの道具を使い分けているのかを知っていただき、少しでも障害のある人への理解につなげていただけたらと思います。

 

なぜ、義足と車いすと松葉杖を使い分けるのか


どうして使い分けをするのかと言いますと、1番の目的としては

 

『ケガをすることなく体への負担をできるだけ減らす』

 

ことです。

具体的には

 

『腰痛の悪化を防止する』

 

『左足(切断していない足)への過度の負担を避ける』

 

『骨折などのケガを防止する』

 

です。

義足はここ数年で随分と改良され、全体の重量もかなり軽くなっています。

とはいえ、細かなパーツを合わせると義足全体で5kg〜7kgあり、その日の体調によってはさらに重たく感じます。

ちなみに、私の義足を持った人のほとんどは、持った瞬間に

 

「重っ!!!!!」

 

「こんなに重いとは思わなかった!!」

 

「こんな重いものつけて歩いてるの!?」

 

と必ず言われます。

一般的に人間の片足(太ももから足先まで)の重さはだいたい体重の約15〜18%と言われているので、60kgの体重の方だと約9kg〜11kgあるので、数字だけを比較すると義足の方が軽く思われるかもしれません。

でも、血管や神経が通っていて自分で自由に動かせる足と、切断している場所から重りのように繋がっている義足とでは事情は全く異なります。

少しわかりやすく説明すると、普段、足に何も障害のない方であれば、自分の足の重さを自覚する時はあまりないと思います(よっぽど疲れている時や、怪我などをしている時などは重たいと感じると思います)。

の状態で、足首に5kg〜7kgの重りがついていると思ってください(2.0Lのペットボトル2.5〜3.5本を足にくくりつけたと想像してみてください)。

ものすごく足が重たく感じると思います。

しかも、歩く時には重りをつけた足の力だけでは不十分なので、重りをつけていない側の足や腰の力をかなり使わないと前に進むことはできないと思います(大変危険ですので実際には行う場合は適切な指導者のもとで行ってください)。

義足を使っている人たちは、ソケット部分のみで義足全体の重さを支えて動いています。

なので、

 

非常に腰や足に負担がかかる

 

のです。

また、私のような太ももから切断している人は、いすなどに座った際にお尻がソケットの硬い面に当たることが多いので、

長い時間座ったままの姿勢でいると、お尻とソケットが当たる部分に痛みを生じる

という課題もあります。

痛みがあるので、

自然と背中が曲がった姿勢をとったり、痛くない方へ体重を乗せる姿勢をとったりする結果、腰を痛めることにもなってしまいます。

また、長時間ソケットを着けている事によるソケットと太ももとの間での『蒸れ』という問題が起こり、『蒸れ』を起こすことで太ももの皮膚を痛めてしまうこともあります。

最近では私も使用している『MASソケット』というものが2003年頃から主流になっているので、以前のソケットと比べて幾分か座る姿勢は楽になりましたが、それでも長時間座る時には同じような痛みを生じてしまいます。

屋外などで義足をつけていて一番危ないと感じて注意している場面は

 

雨や雪で滑りやすくなっている地面

 

ちょっとした階段の傾き

 

手すりがないところの階段や斜面

 

です。

こうした場面での転倒は

 

骨折

 

に直結し、生活に著しく問題を引き起こしてしまいます。

これらの状況は、義足をつけている人だけではなく、皆さんにとっても注意していないと転倒や転落の危険性があると思います。

 

義足を使用しない場合、室内などの短い距離を片足でケンケンしながら移動するという方法も取れないことはないのですが、これは大変危険です。

ケンケンは腰への負担がかなり大きくなるため、腰痛がさらに悪化する原因になりま

また、ケンケンしている=片足で移動していると、もしも床で滑ってしまった時にはほぼ確実に転倒してしまい、最悪の場合は骨折をしてしまいます。

私の知り合いの方で、スポーツ競技でケンケンをして移動している時に、ボールの上に足が乗ったままの状態で転倒してしまい、太ももの骨を折るという重症になった人もいます。

なので、私はどうしても片足で移動しなければならない時には、誰かの肩を借りるか、椅子や家具などにつかまりながら移動するか、床をいざるように移動して、転倒しないよう、細心の注意を払っています。

 

私のような切断者では、こうした状況が日常なのです。

 

若い頃は体力も筋力も持久力もあったので、義足のみでの生活でも大丈夫だったのですが、年齢を重ねるとどうしても体力も筋力も持久力も落ちてきます。

また、体のあちこちにガタがきはじめるので、自分の体を大切にするという意味でも義足と車いすと松葉杖の使い分けが必要ということなのです。

もちろん、ストレッチやトレーニング(主に体幹と下肢筋力強化)をして体を強くしておくことも大切なことなのですが、仕事をしているとそれにも限界があるので、上手に体の状態と付き合いながら、生活の質を落とさない工夫をしているのです。

今までお話をしたことを含めて、義足と車いすと松葉杖をどんな時に使っているのかの具体例をお伝えします。

 

1.義足を使う場面


義足を使う場面は、

 

①朝起きて夜にお風呂に入るまでの間の基本的な1日の生活時間

 

②仕事中

 

③比較的移動距離が短い買い物や友人宅訪問の時

 

④手で何かを持ち運ばないといけない時

 

⑥ゴルフをする時

 

です。

基本的には普段の生活や仕事に関係することで義足をつけていることが多いですね。

 

2.車いすを使う場面


車椅子に関しては、日常的に必要となる場面もあることから、義足と併用しながら使用しています。

車椅子が必要になる場面とは、

 

①長時間同じ姿勢で座っている必要がある時(スポーツ競技場での観戦など)

 

②移動先での長距離移動を必要とする時(空港内の移動、テーマパーク内の移動など)

 

③滞在先での室内移動(旅先など慣れない環境での室内移動など)

 

④義足の修理がどうしても間に合わない時(ソケットの不具合、膝継手の異常など)

 

です。

意外と思われるかもしれないのですが、スポーツ競技場は屋外であることが多く、雨が降っている時や雨上がり後などはちょっとした階段や床で滑りやすくなることが多いので、車いすを使うようにしています。

また、スポーツ競技場やテーマパークなどは人そのものが多く、歩行者同士をみていないまま移動している人がかなり多い(あたりをキョロキョロしながら歩いたり、歩きながら食べものに夢中になって食べていたりする)ので、どうしても人を避けなければならず、とっさの判断で避けきれないとぶつかってしまってお互いにケガをしてしまうことがあるので、車いすを使うようにしています。

空港に関しても、国内の小さな空港ではさほど困らないのですが、国際線への乗り継ぎや海外の空港での移動に関しては、荷物を持ちながら長距離の移動は体への負担が大きいため、車いすを使って膝の上に荷物を置いて移動するようにしています。

 

3.松葉杖を使う場面


義足も車いすも使わない場面では、松葉杖を使って移動しています。

基本的には、義足を外している状態で移動をしなければならない時に、松葉杖を使うことが多いです。

松葉杖を使う場面は、

 

①自宅内や外出先などで義足を外してくつろいだ状態のまま室内を移動する時

 

②義足を外して体幹・下肢などのストレッチやトレーニングをする時

 

③義足も車いすも使えない状況の時

 

などです。

松葉杖に関しては、自宅で使用をすることが多いのですが、車で出かけた旅行先での旅館内の移動で、車いすと使い分けながら松葉杖を使うこともあります。

屋外では義足をつけながら使用することもあります。

 

道具の使い分けはコンタクトレンズで考えてみる


義足と車いすと松葉杖でお話をしましたが、なかなか想像できないという人もおられると思います。

そんな時に、私はコンタクトレンズと眼鏡と裸眼の使い分けで考えてみてくださいと伝えています。

例えば、コンタクトレンズは目に直接つけるので、眼鏡のように鼻や耳に物を置くというわずらわしさがないので、顔を動かしやすく、サングラスなどもコンタクトレンズをしたままで使えるなどの利点があります。

その一方で、コンタクトレンズを落としたりすると全く見えなくなったり、長い時間コンタクトレンズをしていると、目の乾燥(ドライアイ)や目を傷つけてしまう恐れがあります。

また、コンタクトレンズをしたまま寝てしまったりすると、目に深刻なダメージを受けてしまいます。

なので、コンタクトレンズを使う人は、もしものことも考えて眼鏡を持ち歩いている人も少なくありません。

コンタクトレンズをしていて、目が疲れるようであれば、眼鏡に変えればいいですしね。

それと同じで、私の場合は義足と車いすと松葉杖ということなのです。

 

まとめ


 

今回は私がどのように義足と車椅子と松葉杖を使い分けているかについて、その理由も含めてお伝えしました。

皆さんの周りで義足の方を見かけることがあるかもしれないですし、一見すると普通に歩いておられるように見えるかもしれません。

しかしながら、義足を使用している方に限らず、身体の不自由な人は目に見えないところでいろいろな不自由さを感じていることが多いのです。

今回の記事を通じて、私を一つに例にしていただき、どのような場面で義足と車いすと松葉杖を使っているのかを知っていただき、少しでも障害のある人への理解につなげていただけたらと思います。

 

最後までブログを読んでくださり、ありがとうございます!

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4 件のコメント “義足と車いすと松葉杖を使い分ける

  1. コンタクトに置き換えた説明でとてもわかりやすく考えることが出来ました!
    義足、車椅子、松葉杖の使い分けは分かりましたが遠方に行った際、全てを持っていけるわけではないし行った先で貸し出し出来る物があるのかと疑問に思いました。

    1. Y.NAKAMURAさん
      いつもコメントありがとうございます。
      おっしゃる通り、コンタクトレンズや眼鏡は持ち運びがしやすいのですが、車いすや松葉杖はなかなか行った先での貸し出しは難しいですね。ただ最近では、主要な駅や空港、スポーツ観戦施設(野球場やサッカー場など)、大型商業施設やデパート、旅館やホテル、コンサート会場などで車いすの貸し出しをしてくださるところも増えてきています。予め先方に伝えておく必要はあるところは多いものの、少しずつこうした取り組みは進んでいます。ただ、松葉杖を含む『杖』類に関しては、高さ調整などフィッティングが必要なので、貸し出しは難しいのが現状ですね。なので、私の場合は車で遠方に出かける際には松葉杖を乗せて移動するようにしていますよ。
      またコメントをいただけるとありがたいです♪

  2. 81歳の現役で仕事をしています。この健太郎さんのレポートは、大変に分かりやすく書かれていて、よく理解できました。ありがとうございました。
    3ヶ月前に脳梗塞が再発して、現在はリハビリテーション病院に入院しております。
    やっと、4点抓めの杖で、50mくらい歩けるようになりました。後3ヶ月の入院中に500mくらい歩けるように、したいと考えております。今後、ご指導をいただきたく存じます。どうぞよろしくお願いいたします。

    1. 福山さま
      こんにちは。
      コメントありがとうございます。
      3ヶ月前に脳梗塞を再発されたとのこと、コメントを拝見させていただきながら、お体の具合もですが心の具合も案じております。
      4点杖で現在50mくらい歩かれており、目標500mくらいまでの歩行を目指されているとのこと、心より応援いたしております。
      医師・看護師・理学療法士・作業療法士などの医療専門職によるリハビリテーションもですが、福山さまご自身の強い意志やご家族の協力がリハビリテーションに与える効果はとても大きいものがあります。
      現役でもお仕事をなさっておられるとのこと、社会復帰も含めてこれからますますリハビリテーションを進めていかれることと思います。
      焦らず、慌てず、諦めず、私でお力になれることがあれば、ご遠慮なく仰ってください。

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