作業療法士の仕事は、どれだけ相手が作業療法に対して『やる気』になってくれるかにかかっています。
どれだけ正しいことを相手に言っても、『やる気』に繋がらなければ、誰も作業療法を受けたいとは思いません。
これは作業療法だけに限らず、ビジネスの世界でも同じことが言えます。
いくらお客さんのためを考えて売る側がとても役立つ製品を熱心に説明したところで、お客さんが買おうとする気(『やる気』)にならなければ商売になりません。
では、実際にどのようにして相手の『やる気』を引き出すのか、私は次の4つのコツを使うよう心がけています。
1.相手のことをよくみる=『よく観察する』
2.相手に合った接し方や話し方をする=『いろいろと工夫する』
3.相手に合った褒め方をする=『しっかりと具体的に褒める』
4.相手の話をじっくり聞くことをする=『根気強く待つ』
この4つが上手になれば、今までうまくいかなかったことも変わってくると思いますし、実際に私は物事がうまくいかない時に、この4つのコツをいつも振り返るようにしています。
今回は、この4つのコツの第一回目として、『相手のことをよく観察する』についてお伝えしようと思います。
目次
作業療法ではなぜ『やる気』を大切にするのか
私は作業療法士は作業療法の『技術』を相手に買ってもらう仕事だと思っているので、相手がその『技術』を買いたいと思うほど『やる気』になってもらえなければ仕事として成立しないと考えています。
特に、作業療法はこちらから
“してあげる”=相手が受け身になる
ことよりも
“してもらう”=相手が自分からやろうとする=『やる気』になる
ことを大切にします。
これは、中国の古い歴史に出てくる『老子(ろうし)』という人が言ったとされる言葉
『魚を与えるのではなく、魚の釣り方を教えよ(授人以魚 不如授人以漁)』
とよく似ています。
この言葉の意味は
「人に魚をとってあげれば一日で食べてしまう。しかし人に魚の釣り方を教えれば一生食べていくことができる」
ということです。
作業療法も同じことで、
「作業療法士がいなければできない(できたとしてもその場だけ)」
ではなく
「作業療法士がいなくてもできる」
ように進めていくことが望ましいとされています。
だから、相手が自分からすすんで行いたいと思うようになる、つまり
『やる気』になってもらうことが大切
なのです。
相手のことをよく観察する
お医者さんが患者さんを初めて診察する時に、いきなり
「じゃ、あなたは風邪だから、薬を出しとくね」
と言われたら、どう思いますか?
「何も見てない(診てない)のに、なんでそんなこと言うの?」
って不審に思いません(でも、最近、こういったお医者さんも多いですよね)?
だから、お医者さんは
『問診(もんしん:全体像をつかむ)』
『視診(ししん:顔色や皮膚の色や体格などを視る)』
『聴診(ちょうしん:心臓や肺やお腹の音などを聴く)』
『触診(しょくしん:脈拍や体の熱感や痛む場所などを確認する)』
『打診(だしん:体の表面をたたいてその音で内臓や骨の様子を確認する)
をします。
最近では、いろいろなものがデジタル化していて、いくつかの項目は問診票に記入しておくことや、他の病院からの情報(例えば血液検査の結果やレントゲン画像の結果など)などを参考にしておくことで、項目を省略してもそれなりの診察ができますが、良いお医者さんほど、今挙げた項目についてきちんと患者さんにわかりやすく説明してくれます。
しかも、いろいろな方向から観察するので、診断にほぼ間違いはないです。
で、これはお医者さんに限った話ではありません。
日本一と言われるホテルマンは、1万人以上のお客様の情報(名前、性別、特徴、以前ホテルにきた時の印象など)が頭の中にしっかり入っていて、何年もホテルに来ていないお客様が突然来ても
「こんにちは、〇〇様。お久しぶりです。今日は△△(お客様の出身地など)は雪だったようで、お足元は大丈夫でしたか?」
とお迎えされるそうです。
お客様からしたら、何年も来ていない、あるいは一回しか来ていないのに、自分の名前をきちんと覚えてくれていて、しかもどこから来たのかまで気遣いをしてくれていると思えば、びっくりすると共に、素直に嬉しいと思います。
当然、ホテルスタッフ全員の評価も上がりますから、リピーターも増えますよね。
そのくらい、『よく観察する』ことは大切なのです。
そうすれば、
「なんだか相手と話が噛み合っていない」
「なんだか相手がつまらなそうにしている」
「私の話をどこか上の空で話を聞いている」
など相手の状況に気付きますよね。
これを気づかずに話を進めると
「いや、もういいわ」
と言われるだけですし
「いや、もういいわ」とも言われずに、何も言わずに来られなくなることの方が多いです。
しかし、このようなやり取りの中や、それ以外の場面での相手の反応にも、『やる気』を引き出すためのヒントが隠されていることもあるのです。
自分では見てない(見えていない)ところも観察する
作業療法の場面では、真っ先にこの『よく観察する』ことを教えられますので、いろいろな方向から相手を観察することを行います。
それに加えて、『作業療法場面以外での表情・話し方・態度』などもよく観察するように教えられてきます。
私も経験があるのですが、病院のスタッフや他の人から
「●●さん(患者さん)は川本さんの前では素直に言うことを聞いているけど、病棟や家族の前だと、一つも言うことを聞かない」
って言われることがあります。
そんな時に
「私の言うことは素直に聞くんだ」
と一人で勝手に喜ぶことはありません(ただし、私の話を素直に聞いてくれているのであればなんらかの方法として使えるかもと思います)。
むしろ
「ヤバイ」
って思います。
それは
「●●さんは、本当はもっと言いたいことやしたいことがあるんじゃないか。それを私は見落としているんじゃないか。本当は『もうえええわ』って思ってるんじゃないか」
と思うようにしています。
なので、『作業療法場面以外での表情・話し方・態度』と『基本情報(氏名・年齢・性別・生活歴(どんな生活を今まで送ってきたか)・仕事歴(どんな仕事を今までしてきたか)・趣味・好きなこと(お酒とかタバコとか)・嫌いなこと・病名・障害名・家族構成など)について、他の人からかなり細かく聞きます。
例えば、
①作業療法場面以外での普段の表情
②作業療法士以外の人との話し方
③作業療法場面以外での他のスタッフや家族に対しての態度
④部屋での過ごし方
⑤他の患者さん(利用者さん)との関わり方
⑥睡眠、排泄や食事がきちんとできているか
など、身近にいる人や他の専門職でないと気づけないところを聞き取り、自分が見えているところと照らし合わせてみます。
すでに作業療法場面で聞いていることであっても、捉える人によっては全く異なる解釈をしていて、それが役立つこともあるので、改めて聞くようにしています。
その情報をもとに、その相手が興味を持ちそうなことを手がかりに、本音の部分を聞き出すきっかけとして利用することもあります。
また、私と相手(患者さん)が話をしていたり、何かを一緒にしていたりする場面を他の人に見てもらって、その様子を後で教えてもらって、『客観的に物事を見る』ことを心がけています。
『客観的に物事を見る』については、以前お伝えした、“『将棋』を通じて他人の視点で自分をみて考える”もぜひ一緒に読んでみてください。
あわせて読みたい
『将棋』から学んだ人生のこと〜他人の視点で自分をみて考える〜
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その上で
その人が本来したいと思っていること
本音の部分は何なのか
不安や不満はないだろうか
といったことに考えを持っていくようにしています。
大切なことは
『見えるところをよく観察する』
だけではなく
『自分では見てない(見えていない)ところも観察する』
ことが大切なのです。
まとめ
今回は、『やる気を引き出す4つのコツ』のその1である
『相手のことをよく観察する』についてお話をしました。
『相手のことをよく観察する』ことは、『見えるところ』だけではなく『自分では見てない(見えていない)ところも観察する』ことが大切だということもお伝えしました。
今の仕事や人間関係で、すぐに実践できるかどうかは難しいところですが、もし、今、仕事や人間関係でうまくいっていないことがあれば、今回の内容を繰り返し読んでいただき、まずは自分のできているところとできていないところを確認してもらい、少しでもできるところを増やしてみてはいかがでしょうか。
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